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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
あの時彼女はこの男の容貌が如何にも田舎紳士臭く、知的なところが少しもないのが気に入らなかったので、義兄の親切な斡旋があったにも拘らず、我が儘を云って断ってしまったのであったが、あれから十余年の歳月を経た今見ても、矢張この人は田舎臭い顔をしている。特に醜男と云う程でもないが、初めから老けて見える顔だちの男だったので、あの時分に比べてそう年を取ってはいないけれども、田舎臭さは前よりひどくなっていて、その特長の故に彼女は今、おぼろげになった過去の数々の見合いの中の、数々の「顔」の記憶の中からこの顔が思い出せたのであった。男の方も、彼女がそれと分った頃には、うすうす見当が付いて来たらしく、俄にバツの悪い様子で横の方を向き始めたが、それでもなお、半ば疑うものの如く、此方の隙を窺っては極めてこっそりと、繰り返し繰り返し流眄を使っているのであった。もしこの男が三枝に違いないとすれば、あの頃この男は見合いの外にも一二度上本町の家へ訪ねて来て彼女に会ったことがあるのだし、彼女の器量に打ち込んで熱心に懇望したのであるから、彼女の方では忘れていたとしても、彼の方では彼女を覚えていてよい筈であるが、男は恐らく、彼女が老けてしまったために不審を抱いているのではなくて、彼女があの見合いの当時と大して変らない若さを保ち、今も令嬢風の