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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

03 下巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页

青空文庫

とあるけれども、実際はあの十日の日に腹を極めて帰ったに違いないので、直ぐにも断りを云うべきところを、遠慮して中一日置いたものと推量された。それにしても、これは直接此方へ宛てた手紙ではないのであるから、こんな風な切り口上でなしに、もう少し何とか未亡人を得心させるような断り方もあろうではないか。ただ「御縁無之」とばかりで何の理由も示さないのは、人を遠くから呼びつけて置きながら非道いと云うことは別にしても、菅野家へ対して失礼ではないであろうか。それに又「御縁無之申候間」とある「申候間」と云うのは何であろう。その文句の上に「その後協議申候処」とあるのから見て、家の者や親類の者たちと相談いたしましたところ、皆が御縁が無いと申しますからと云う意味らしいが、成る程こんなところが千万長者の見識とでも云うのであろうか。何にしてもこの「申候間」なる文句は一層空々しくて不愉快である。一体こんな手紙をそのまま同封して寄越した菅野未亡人はどう云うつもりなのであろう。沢崎がどんなことを書こうと、知らなければそれ迄であるのに、此方へ宛てた手紙でもないものをわざわざ見せてくれるには及ばないではないか。