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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
03 下巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 226,715 字 · 431 页
幸子はあの日、自動車の中の二人を見た時は余り突然だったので、びっくりさせられたのであったが、だんだん落ち着いて考えると、妙子は板倉の事件以来奥畑を見限ってはいたものの、全然手が切れていたのではないのであるし、まして板倉がいなくなった現在、二人がたまたま連れ立って歩いていたとしても、何もそんなに驚くには当らない訳であった。ただ、あれは板倉が亡くなってから十日程後であっただろうか、或る日幸子は新聞に奥畑の母の死亡広告が載ったのを見て、啓坊のお母さん、死にやはったわなあ、と云って、そっと妙子の顔色を窺うと、妙子が、ふん、と、ひどく興味のない返辞をしたことがあった。長いこと患うてはったん?………と聞いても、さあ、………と云うので、この頃ちょっとも会うてやないのん? と云うと、又、ふん、と鼻の先で答えたきりであった。幸子はそれ以来、妙子が奥畑の噂をするのは余程厭なのであろうと察して、彼女の前で「啓坊」の「け」の字も云い出したことはないのであるが、さればと云って、彼と完全に絶交したと云う言葉は、妙子の口からまだ聞いていないのであった。それに幸子は、妙子が早晩第二の板倉のようなものを拵えずには措くまいと思って、懸念していたのであるが、又しても感心しない相手が選ばれるくらいなら、奥畑との間に縒りが戻ってくれた方が、自然