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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

それから七月一杯ズル/\ベッタリで居通して足らず、八月へ持ち越す料簡だった。すると日頃丈夫な父親が急に不眠症を起して、突如宿へ転地して来た。もう厭も応もなかった。仕舞ったと気がついたが、もう晩い。今考えて見ると、やかまし屋で通っている父親があれまで我慢をしてくれたのが不思議なくらいのものだ。自分都合に目が眩んで、浅ましくも、当然不可能なことを可能のように思ったのである。

「七月末が限度だった。無理もない。それでもあの時には何うにも融通がつく積りだったんだから、おれも図々しい」

と肚の中で言いながら、新太郎君は父親の顔を打目戍った。

「矢っ張り家のものは美味い。彼方じゃ窮命したよ」

と父親は上機嫌だった。

「能く御辛抱が続きましたわ」

と母親は二日置きに見舞いながら、口に合うものを拵えに行ったのである。

「唯二週間だけれど、帰って来ると家が珍らしいようだ」

「こんなに長くお明けになったことは初めてでございますからね」

「然うさ。物見遊山の好きな方じゃないからな。病気にでも追い立てられなければ出掛けないよ」

「もう悉皆およろしいんでございますか?」

と新太郎君は丁度好い切っかけを得て後れながら容態を伺った。