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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

と言って、俊男君が後を追おうとした時、

「俊男さん、あなたは一寸」

と友三郎さんが止めた。

「何ですか?」

「何でも宜いのよ。一寸々々」

と操さんが然るべく計う。

新太郎君は靴下に庭下駄を穿いて、秀子さんと連れ立った。

「お広いですな。大きなお池がありますな。銀座あたりから来ると羨ましいです」

と恐悦至極だった。

「古いだけが自慢よ。これで庭師が見ると何処か法に叶っているんですってね」

「素人の私にも何となく結構ですよ」

「私はもっと現代的のが欲しいわ」

「花壇ですか?」

「いゝえ。花壇は裏にありますよ」

「それじゃ西洋式ですね?」

「えゝ」

「あれは迚もこれほどの趣がありません。やあ、大きな鯉がいる」

「もっと大きなのがいたんですが、四五年前に皆死んでしまいましたの」

「何うしたんです」

「涸れたことのないこの池がその夏に限って涸れてしまいました」

「はゝあ」

「すると間もなくあの大震災です」

「はゝあ、何か地震と関係があるんでしょうかね」

「さあ。安政の時にも涸れたと申しますわ」

「不思議ですな」

「西川さん、彼処で休みましょう」

と秀子さんは築山の麓へ案内して行った。陶器の腰掛が二つ誂え向きに並んでいる。