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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

と新太郎君は改まって報告した。お母さんには我儘を言っても、父親の前へ出ると鼠のようになる。

「ふむ。然うかい? 二三日休むか?」

「はあ。お母さんが一寸何か御相談があるそうです」

「俺にか? よし/\」

と父親は奥へ入って行った。

「何うだったい?」

と寛一君が近寄った。

「巧く行きそうだよ」

と新太郎君は囁いた。

「若旦那、如何でございましたか?」

と大番頭の栗林さんが訊いた。

「神経衰弱で少くとも一ヵ月の転地療養を要するそうです」

と新太郎君は今度は大きな声で答えた。それから持場に坐って帳簿を繰り始めると間もなく女中が迎いに来た。恐る/\奥へ入って見ると、

「新太郎や、お母さんから種々聞いたが、真正に悪いのなら何も遠慮することはないよ。一月遊んで来るさ。身体が一番大切だ。充分健康を恢復して、ミッシリ働くさ」

と父親がもう承諾していたのには、新太郎君、少し気味が悪かった。しかしお許しの出た上は御意の変らない中にと、早速店の方を休むことにして、逗子の避暑宿へ問合せの手紙を出した。

「お母さん、田舎へ行くんですから、せめてもの名残りに、今日はこれから芝居を見て来ます」