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だっせんむすこ

脱線息子

佐々木 邦

「キング」大日本雄辯會講談社、1927(昭和2)年7月~1928(昭和3)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,293 字 · 221 页

青空文庫

「西川さあん、一寸」

「何ですか?」

と新太郎君は縁側の外れまで出て行った。

「先刻姉さんにお預けになったお時計よ」

と秀子さんの用向は新太郎君がうっかりつけて行って水浴中松浦夫人に預けた腕時計を返すことだった。

「有難うございました」

「又夕方いらしって?」

「さあ」

と新太郎君は持て余した。

「お客さま?」

「えゝ」

「御一緒にいらっしゃいよ。宜いでしょう? いらっしゃいよう」

と秀子さんは遠退くに従って声を大きくした。新太郎君は席に戻った時額に玉の汗をかいていた。

「新太郎や、今月末には厭応なしだよ」

と母親は妙に白けた座を繋いでくれた。

「はい。私も長らく御心配をかけましたから、今度は生れ更って勉強します」

「然うして下さいよ」

「神経衰弱って病気は丁度遊び頃なものですから、兎角誤解を受けて残念です」

「然ういう気概があれば結構だ。店の方は繰り合せるから、今月中機嫌好く遊んで、来月から魂を入れ替えるさ」

と父親も改めて快諾を与えた。

「はあ」

と新太郎君は平伏した。

それから少時世間話に打ち解けた後、

「どれ、ソロ/\引き揚げようじゃないか?」

「然うでございますね」

と両親は立ち支度をした。