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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

彼自身も寝間着をつけて、帯をしめていた。彼は服に着換えた。腰から下に力がなく、ふらついて倒れそうだった。

障子を開けると、濡縁になっている。陽が当っていた。狭い庭だが、水のない小池があり、小池と板塀との間に布袋竹が並んで、風にそよいでいる。北村は濡縁の日向に出て、布袋竹の茂みに眼をやった。長い間じっとしていた。

ふと、大事なことに思い当った。昨夜来のことを、雲海の上につき出てる山の峯々を飛び歩くような思いで、飛び飛びに辿っているうち、胸を突くような峯が一つあった。モチーフの涸渇、そうだ、モチーフの涸渇だった。それは昨夜来のいろいろな事柄とは無関係な、ただ自分一個のものに過ぎなかったが、それが実は、すべてを超えて聳える高峯だった。それが前途の展望を塞いでいた。酔い痴れたのもそのためだった。考えてみれば、彼はすべてのことについて、後から後からと気を揉むだけで、先に立って歩いたことは一つもなかった。若竹に泊りこんで喜代香の肉体に触れたことなど、彼にとっては問題でなかったし、嘗て何度かしたことの繰り返しに過ぎなかったが、それを繰り返すような地位に自分を置いたことが、既に、自分一人置きざりにされたようなものだった。