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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
考えてみると、そういうことがすべて、怪しいのだ。わたしが不安を感ずるのも、実は根拠のないことかも知れないし、無籍者という言葉にびっくりしたのも、実は思いすごしかも知れないし、北村さんがへんに隠し立てするようなのも、他に何の理由もないのかも知れないし、すべて取るに足らないことかも知れない。しかし、その取るに足らないことごとが、へんにわたしの気持ちを波立たせるのが、怪しいのだ。これも、ああ、愛情の故か。いいえ、違う。何かある、たしかに何かある。
わたしは無理にビールを飲んだ。そして他に事もなく、用があると言って北村さんに別れ、不忍池のまわりをぶらついた。
菅原さんは、やがて東京に帰って来るだろう。それは確かだ。あの人が無籍者だというのは単なる渾名だろう。あの人にはそういう色合いがある。けれど、あの人が東京に帰って来たら、きっと、なにか変事が起りそうだ。わたしの身にとってではない。あの人の身にとってでもない。あの人を中心に、その周囲に、なにか変事が起るに違いない。それが、恐ろしいとか怖いとかいうのではないが、やはり、大きな不安の影をわたしの心に投げかけるのだ。