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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

その彼の目には、策略とか媚びとか卑下とか或は威嚇とか、そのようなものは少しもなく、ただ一徹な純真さだけしかないと、佐竹は感じた。――その時の感銘を、佐竹は今に持ち続けている。と共に、少し当惑してもいる。菅原は頭もよいし才能もあるが、凡そ一徹な純真さにつきものの不遠慮さがある。何事にも勝手な意見を持ち出すし、或は何事にも冷やかな沈黙を守るのだ。

北村庄作が天元社に立寄った機会を、佐竹は捉えた。――書物の装幀や雑誌のカットなど、天元社の仕事を北村はやってるのである。

四十五歳のこの画家は、社長室にはいってゆくと、横手の壁にかかってる自作の風景画を、何より先に眺めるのである。彼に言わせると、そこには、強烈な外光の中で、大地がのたうち、樹木が踊り、遠景の丘陵が深呼吸をしているのだ。それをじっと眺めて、それから手当り次第の椅子に腰を下し、十歳ほども年下の佐竹に、至って世間なみな口を利く。

「暑くてかないませんね。お家の方、皆さんお丈夫ですか。」

佐竹は機会を捉えたものの、いざとなると、話し出すのに困った。開襟シャツの胸元へ扇子で風を送り、それからウイスキーの瓶を取り出した。