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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

「暑いから、却って、こういうもの、いかがですか。」

「いやあ、結構ですな。」

帽子から服から靴まで、北村は夏でも黒色好みであるが、その黒の上衣を、酒となると脱いで、つぎはぎのあるシャツの上半身姿が、へんに年老いて見える。

佐竹はおもに煙草で、北村はおもに酒なのだ。

佐竹は煙ごしに尋ねてみた。

「菅原君から、先生のところへは、なにか、便りがありましたか。」

「菅原……。」北村はぐっと酒をあおった。「あれは手紙を書くのが嫌いな男ですな。」

「どうしてですか。」

「つまり、なかなか書かないから、書くのが嫌いだということになるわけですな。」

暫く間をおいて、北村は言った。

「菅原君が鉄砲玉のようになってしまった、そんな風に、友人たちは心配をしてるようですが、なあに、私は心配はしない。鉄砲玉は行方不明になるものだが、菅原君は行方不明にはなりはしない。いつか、ひょっこり帰って来ますよ。」

佐竹は酒をのみ、北村にもしきりにすすめた。

「ところで、先生、僕は気にしてることがあるんです。菅原君には、実は気の毒ですが、なにしろ嘱託ということになってるので、手当も充分には出していません。