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じゆうじん

自由人

豊島 与志雄

「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页

青空文庫

菅原君はあんな風で、何とも言いませんが、生活をどうして立てているか、先生のお宅にいるので、先生は御存じでしょうね。」

「ああ、そのことですか。金なら、多いにこしたことはない。いくらでも、出せるだけ出してあげなさい。」

「菅原君は、ふだん、困ってるんでしょうね。」

「ところが、困っておらん。私はこの通り、酒飲みで、金がはいればすぐに飲んでしまう。家内がまた、感心な……善良な女で、私にいくらでも飲ませる。つまり、これは、私たちの生活の、家庭の、一種の惰性ですな。私は無一文になると、泣きたいほど憂鬱になる。だが、家内は、いっこう憂鬱にならん。まったく、感心なほどの善良さです。そこへもってきて、うわての善良さが現われて来た。誰だと思いますか。菅原君です。私に酒をひかえなさいと、たった一度、たった一度ですよ、意見したことがあったが、それきりもう何とも言わなくなった。言わないばかりか、時々、ウイスキーにせよ、日本酒にせよ、ビールにせよ、ひそかに家内の手許に届けておいてくれるんです。それで、自分は酒が嫌いかというと、嫌いどころか、いくらでも飲む。だが、ふしぎなのは、つまり、私から見てふしぎなのは、飲んでもよいし、飲まなくてもよいという、自由自在な点ですな。