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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
それでも、裏庭の木戸、簡略に裏木戸と言われてるものは、日常の買物への近道に当っていて、時に締りが忘れられることもあった。――そういう事情と関連して、北村は、側に千重子がいるせいか、菅原洋平のことを思い浮べた。菅原は全く反対で、一切戸締りをしない癖があった。夜遅く帰って来ても、表戸を引き寄せただけで、二階の室に上ってゆく。二階の雨戸は昼も夜も明け放したままで、何の締りもない硝子戸一枚きりで、寒中でも寝てしまう。硝子戸きりだと、月も見え、星も見え、室内の空気は爽かだと言う。不用心なことなどは、全然考えていないらしい。戸締りを厳重にするなどは、自分で自分を縛りつけて安心するたぐいの欺瞞的心理に由るものだと、彼は言う。
北村は愉快そうに笑った。
千重子は振り向いた。
「なにがおかしいの、小父さま。」
「いや、笑ったのはわるかった。ちょっと、菅原君のことを思い出したものだから……。」
「なにか、お便りがありましたの。」
「すぐそれだ。まあ気にしないがいいよ。ところで、お父さんの方は、つまりその憤怒とか病気とかの方は、なにか原因の手掛りがあったかね。」
「それが、さっぱり分らないの。