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じゆうじん
自由人
豊島 与志雄
「芸術」1948(昭和23)年7月、9月、11月、1949(昭和24)年1月(未完)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 69,030 字 · 139 页
これはどういうことかね。時々僕は癇癪を起したくなる。じっと我慢をしてはいるが、どうにもやりきれなくなって、癇癪を破裂させることもある。要するに、神経衰弱だ。それが僕の主な病気だよ。然し、この病気には、やはり肉体上のはっきりした原因がある筈だ。それを、小泉博士につきとめて貰いたいと思っているのだ。」
彼は口を噤んだが、北村にも言葉は出なかった。――一家の主長、それも謂わば絶対的な主権者が、右のような打明け話をするのも、而も平素あまり好まれていないらしい北村に向ってするのも、やはり一種の神経衰弱のせいだったろうか。偶然の機会で打明話の相手になった自分の立場を、北村は不思議なものに感じたし、松本の立場を痛々しいものにも感じた。その感じを押し隠すようにして、彼は卓上に眼を伏せたままでいた。
松本は立ち上った。
「それでは、これで失礼するよ。あちらで、ゆっくりしていってくれ給い。田舎からの到来物だが、折よく酒があるから、子供たちと遊んでいってくれよ。子供たちには、君のような遊び相手がいちばん嬉しいらしい。」
思いがけないほど元気に彼は笑った。
北村はつっ立って、松本の前屈みの後姿を見送った。