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きくやしき
菊屋敷
山本 周五郎
「菊屋敷」産報文庫、大日本雄辯會講談社、1945(昭和20)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,620 字 · 71 页
という観念でさえ、つきつめればおなじ点へゆき当る、宝暦六年に竹内式部が譴責され、明和四年に山県大弐が刑死したのも、つづめていえばその一点が原因であった。したがってかれらがやがてここへ達するであろうことは、当然わかっていなければならなかった筈だ。
――そうだ、そのことは予期しなくはなかった。自分の居間へはいった志保は、しずかにこれまでの自分の想いをふりかえってみた、――ただあの方たちの口をとおして聞いたことが自分をおどろかせたのだ。そして、……大義顕彰のためには自分が死ぬだけでは終らない、子も孫もあとに続く、生命の存続がなければならぬと云った杉田の言葉が、ひじょうに強い意味をもって志保の心を叩いたのである、「命を捨てる覚悟だから今まで娶らないのか」という問いに対して、「自分が死ぬだけでは目的は達せられない、続くべき子孫が必要だ」と云う、子々孫々をあげて大義顕彰の道へ進もうというのだ、ではなぜ今日まで結婚しずにいるのか、吉岡助十郎のふと口にした、――羨やましいような縁談がしばしばあった、というのがもし事実なら、それを断わって娶らずにいる理由がなくてはなるまい。