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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
余の驚き叫びし声には室中の人皆驚きしと見え、余が自ら我が声を怪みて身辺を見廻りし頃には判事も警察官も目科も書記も皆余の周囲に立ち「何だ「何事だ「何うした「何うしました」と遽だしく詰問う声、矢の如く余が耳を突く、余は猶お一語をも発し得ず唯だ「あ、あ、あれ、あれ」と吃りつゝ件の死体に指さすのみ、目科は幾分か余の意を暁りしにや直様死体に重り掛り其両手を検め見て、猶予もせずに立上り「成ほど、血の文字は此老人が書いたので無い」と言い怪む判事警察官が猶お一言も発せぬうち又蹐みて死体の手を取り其左のみ汚れしを挙げ示すに、警官も此証拠は争われず「あゝ大変な事を見落して居たなア」と呟けり、目科は例の空煙草を急ぎて其鼻に宛ながら「好く有る奴さ一番大切な証拠を一番後まで見落すとは、併し老人が自分で書たので無いとすれば事の具合が全く一変する、さア此文字は誰が書た、勿論老人を殺した奴が書たのだろう」判事と警官も一声に「爾とも爾とも目「愈々爾とすれば曲者が老人を殺した後で自分の名を書附けると云う馬鹿はせぬなら、此曲者は無論藻西で無いと思わねばならぬ、是丈は誰も異存の無い