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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

まゝ一言も発せずに居ましたが吾々が藻西を引立ようとすると宛で女獅々の狂う様に飛立て戸の前に立塞がり、通しません茲を通しませんと叫びましたが本統に凄い様でした、流石に検査官は慣て居るだけ静に制してイヤ内儀腹も立うが仕方が無い其様な事をするだけ不為だからと云ましたけれど女房は仲々聴きません果は両の手に左右の戸を捕え所天に決して其様な罪は無い彼に限ッて悪事は働かぬとか所天が牢へ入られるなら私しも入れて下さいとか夫は/\最う聞くも気の毒なほど立腹し吾々を罵るやら誹るやら、容易には収り相も見えませんでしたが、何と云ても検査官の承知せぬのを見、今度は泣ながら詫をして何うか所天を許して呉れと願いました、気の毒は気の毒でも役目には代られませんから検査官は少しも動きません、女も終には思い切たと見え所天の首に手を巻て貴方は此様な恐ろしい疑いを受けて無言て居るのですか覚えが無と言切てお仕舞いなさい貴方に限て其様な事の無いのは私しが知て居ますと泣きつ口説つする様に一同涙を催しました、夫だのに藻西太郎と云う奴は本統に酷い奴ですよ、何うでしょう