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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
其泣て居る我が女房を邪慳にも突飛しました、本統に自分の敵とでも云う様に荒々しく突飛しました、女房は次の室まで蹌踉て行て仆れましたが夫でも先ア幸いな事には夫でいさくさも収りました、何でも女房は仆れた儘気絶した様子でしたが其暇に検査官は亭主を引立て直様戸表に待せある馬車へと舁いで行きました、いえ本統に藻西を舁いだのです彼れは足がよろ/\して馬車まで歩む事も出来ぬのです、え何と恐ろしい者じゃ有ませんか、我が悪事が早や露見したかと失望したので足が立なく成たのです、先々是で厄介を払たと思た所ろ女房の外に猶だ一つ厄介者が有たのですよ、夫を何だと思います、彼れの飼て居る黒い犬です、犬の畜生女房より猶だ手に合ぬ奴で、吾々が藻西太郎を引立ようとすると々と吠て吾々に食い附うとするのみか追ても追ても仲々聴ません、実に気の強い犬ですよ、夫でも先ア味方は三人でしょう敵は纔に一匹の犬だから漸くに追退て藻西を馬車へ引載ると今度は犬も調子を変え、一緒に馬車へ乗うとするのです、夫も到頭追払いやッとの事で引上る運びに達しましたが、其引上る道々も検査官は藻西太郎を慰めようとしますけれど彼れ首を垂れて深く考え込む