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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
老女は最怪げに余を頭の頂辺より足の先まで隈なく見終り「なに貴方、仮令当人の顔は見ずとも連て居る犬を確に見ましたもの、犬は藻西に連られて来る度に私しが可愛がッて遣りますから昨夜も私しの室へ来たのです、だから私しが余物を遣うとして居ると丁度其時藻西が階段の所から口笛で呼ましたから犬は泡食て三階へ馳上ッて仕舞ました」此返事を目科は何と聞きたるにや余は彼れの顔色を読まんとするに、彼れ例の空箱にて之を避け「して藻西の犬とは何の様な犬だ」と老女に問う女「はい前額に少し白い毛が有るばかりで其外は真黒な番犬ですよ、名前はプラトと云ましてね、大層気むずかしい犬なんです、知ぬ人には誰にでもりますが唯私しには時々食う者を貰う為め少しばかり穏かです、藻西太郎より外の者の云う事は決して聴きません」是だけ聞きて目科は「夫で好し最う聞く事は無いからお前下るが好い」と云い老女が外の戸まで立去るを看送り済し更に余が方に打向いて「最う何うしても藻西太郎の仕業と認める外は無い」と嘆息せり。
目科が猶お老女を尋問し居たるうちに、先刻判事が向いに遣しと云いたる