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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

医官二名出張し来りて此時までも共々に手を取りて老人の死骸を検め居たれば余は一方に気の揉める中にも又一方に医官が検査の結果如何と殆ど心配の思いに堪えず、凡そ医師二人以上立会うときは十の場合が七八まで銘々見込を異にする者なれば若し此場合に於ても二人其見る所同じからず、縦し一方が余の見立通り老人は唯一突にて痛を感ずる間も無きうちに事切れたりと見定むるとも其一方が然らずと云わば何とせん、青書生の余が言葉は斯る医官の証言に向いては少しの重みも有る可きに非ず、斯思いて余は二人の医官を見較ぶるに一方は瘠せて背高く一方は肥て背低し斯も似寄たる所少き二人の医官が同様の見立を為すは殆ど望み難き所なれば猶お彼等の言葉を聞かぬうちより既に失望し居たる所、彼等は頓て検査し終り、今まで居残れる警察長に向い不思議にも同一の報告を為したり、同一の報告とは他ならず梅五郎老人は唯一突にて即死せし者なれば従ッて血の文字は老人の書し者に非ずと云うに在り。

余は意外にも二人の医官が二人ながら余の意見と同一の報告を為せしを見、ほッと息して目科に向えば目科は益々怪しみて決し兼たる如く「フム老人が書たで無いとすれば誰が書た