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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
実に目科は巧なり彼れが言葉には筆に尽せぬ力あり妙に人の心を動かすに足る、余若し罪人ならば唯彼れの一言に奮い起き仮令い何れほどの疑いに囲まれようとも其の疑いを蹴散して我身の潔白を知せ呉れんと励み立つ所なり、爾は云え目科は気も気に非ず、此一言実に藻西太郎の罪あるや無きやを探り尽す試験なれば胸の中如何ほどか騒立つやらん、藻西太郎は意外にも、無愛想なる調子にて「爾仰有ッても仕方が有りません、自分で殺した者は到底隠し切ませんから」と答う、此返事に余は殆ど腰抜すほど驚きたり、あゝ当人が此口調では最早や疑いを容るゝ余地も無し問うも無益、疑うは猶お駄目なり、爾れど目科は猶お挫けず「何だとお前が殺した、本統か、本統にお前か」藻西太郎は忽然として、宛も狂人が其狂気の発したるとき、将に暴れんとして起が如く、怒れる眼に朱を濺ぎ口角に泡を吹きて立上り「私しです、はい私しです、私し一人で殺しました、全体何度同じ事を白状すれば好いのですか、今し方も判事が来て、同じ事を問うたから何も彼も白状しました、ヘイ其白状に調印まで済せました、此上貴方は何を白状させ度くて来た