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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

探偵との返事を聞き倉子は絶望せし人のごとく元の椅子に沈み込み殆ど泣声を洩さんとせしも、思直してか又起上り、今度は充分に怒を帯びたる声鋭く「あゝ私しを捕縛するため来たのですね、さあお縛なさいお連なさい、連て行て所天とともに牢の中へ投込んで戴きましょう、罪無き所天を殺すなら私しも一緒に殺して下さい、さあ、さあ」と詰寄する、是が真実此女の誠心ならば誰か又此女を所天に勧めて其伯父を殺させし者と思わん、唯之だけにて無罪の証拠は充分なり、流石の目科も持余して見えたるが此時彼方なる寝台の下にて狗の怖らしくるを聞く、是なん兼て聞きたる藻西太郎の飼犬プラトとやら云えるにして今しも女主人が身を危しと見、余等二人に噛附んとするなる可し、倉子は一声に「これ、プラト、怒るのじゃ無いよ、此お二人は恐しい方じゃ無いから」と、叱り附る、叱る心を暁てか犬は再び寝台の下に隠れたれども、猶お少しでも女主人の危きを見れば余等二人に飛附ん心と見え暗がりにて見張れる眼、宛も二個の星の如くに光れり、目科は倉子の言葉を機会に「ほんに吾々は恐しい人じゃ有ません、斯して来たのも捕縛など云う恐る