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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
可き目的では無いのです」是だけ聞きて倉子は少し安心の色を現すかと思いしに少しも爾ること無く、目科の言葉を聞ざりし如くに、我手に持る呼出状を一寸と眺めて「今朝裁判所から此通り私しを午後の三時に出頭しろと云て来ましたが、裁判官は虫も殺さぬ私しの所天へ人殺の罪を被せ、夫で未だ飽足ず、私しをまで何うか仕ようと云うのでしょう」目科は今までに余が見し事なきほど厳そかなる調子にて「裁判所は決して貴女の敵では有ません唯問糺す丈の事です、貴女に問えば若しも藻西太郎の罪の無い証拠が上ろうかと思う為です、私しの来たのも矢張唯だ夫だけの目的で、色々貴女に問うのです、貴女の答え一つに依り嫌疑が益々重くもなり、又全く無罪にも成りますから腹臓なく返事するのが肝腎です、さ何うか腹臓なく」と云れて倉子は凡そ一分間が程も其青き眼を挙げ目科の顔を見詰るのみなりしが、漸くにして「さアお問なさい」と云う、あゝ目科は如何なる問を設けて倉子を罟に落さんとするや、定めし昨夜藻西太郎を問し如く敵の備え無き所を見て巧みに不意の点のみを襲うならんと、余は窃かに堅唾を呑みしに彼れは全く打て変り、正面より問進む