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ちのもじ

血の文字

黒岩 涙香

「綾にしき」1892(明治25)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页

青空文庫

と打問えり。

不意に推掛たる此問に倉子の驚きたる様は実に譬うるに物も無し、余は疑いも無く他れの備えの最も弱き所を衝きたり、灸所とは斯るをや云うならん、倉子は今も猶お手に持てる燭台を取落さぬばかりにて「はい此犬は、此犬は、爾です何所に居ましたか、存じませんいや思い出しませんが」と綴る言葉も覚束なし余「夫とも太郎殿に随て行きでもしましたか」此添言葉に力を得倉「あゝ思い出しました、爾々全く所天に随て行たのです余「では馬車に乗ても矢張其後に随て行く様に仕込で有ますか、何でも太郎殿はリセリウ街から馬車に乗たと仰有ッた様でしたが」倉子は一言の返事無し、余は益々切込みて充分に問詰んとするに、何故か目科は此時邪魔を入れ「詰らぬ事を問い給うな、内儀も酷く心を痛められる際と云い三時からは又裁判所の呼出しにも応ぜねば成らぬ事だから最う少しは休息なさらねば能く有る舞い、家捜までして何も見出さぬから最う吾々の役目は済だじゃ無いか、好い加減にお遑に仕様、さア君、さア」余は実に合点行かず、折角敵の灸所を見出し今たゞの一言にて底の底まで問詰る所なるに、目科は夫を詰らぬ