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ちのもじ
血の文字
黒岩 涙香
「綾にしき」1892(明治25)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,021 字 · 87 页
然り此老人の死骸こそは恐ろしき犯罪の結果なること言う迄も無し、唯余の隣人目科は余ほどに驚き恐れず足踏も確に警察官の許に進むに、警察官は其顔を見るよりも「アア目科君か、折角呼に遣たけれど君を迎えるほどの事件では無ッたよ目「とは又何う云う訳で「いや君の智慧を借るまでも無く罪人が分ッて、仕舞ッた、実は最う逮捕状を発したから今頃は捕縛された時分だ」罪人が解りたらば先ずほッと安心すべきところなるに目科は爾は無くて痛く失望の色を現わしを体好く紛らさんため例の嚊煙草の箱を取出し鼻の先に二三度当て「おやおや罪人が分ッたのか」と云う、今度は予審判事が之に答えんとする如く「分ッたにも、最う明白に分ッたよ、罪人は此老人が死切れた物と思い安心して逃て仕舞ッたが実は是れが本統に天帝の見張て居ると云う者だろうよ、老人は未だ死切ずに居て、必死の思いで頭を上げ、傷口から出る血に指を浸して床へ罪人の名を書附て置て死だ。先ア見たまえそれ血の文字が歴々と残ッて居る」此傷ましき語を聞きて余は直ちに床中を見廻すに成るほど死骸の頭の辺に恐ろしき血の文字あり MONIS の綴りは死際の苦痛に震いし如く揺れ/\になりたれど読擬う