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あめのやまぶき
雨の山吹
山本 周五郎
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,433 字 · 33 页
誰かが――笠にすべき、とよんだとおり、しなやかにたわんだ枝々は、雨に濡れていっそう重たげにみえた。若い浅緑の葉も、弁の大きなひと重咲きの花も、雨に濡れて、やはり重たげに、たわんでいた。
彼は放心したように立っていた。
――自分に非運がまわってきて、初めて他人の苦しみがわかる、というのはたまらないことだ。
そういう言葉が耳の奥で聞えた。それはいつか兄の云った言葉である、どういう連想作用かわからないが、まるで現実のように、はっきりと聞えた。
彼はなお山吹の花を見ていた。さし交わす枝の中で、或る二つの枝が絡みあうようなかたちで伸びていた。重たげに濡れて、たわんだなりに、寄り添って花をうけていた。彼はその二つの枝を見ていた、それは他の枝のようではなかった、それは汝生と喜兵衛のようであった。
――自分に非運がまわってきたとき……。
又三郎はふと顔をあげた。
庭の中へ人が出て来たのである、そちらに菜でもあるのだろう、傘をさして、目笊を持った女だった。
「まことに申しかねるが」と又三郎が呼びかけた、「――この山吹を少し頂きたいのだが、どうでしょうか」
女はこちらを見た。