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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

「わたくしあなたにお目に掛かったら、いろんな事をお話ししなくてはならないと思ったのですが、どうしたんでしょう、みんな忘れてしまってよ」

「病院のお話でしょう」

「ええ。それもあってよ」病院の話が始まった。お医者は一週間も二週間も先きの事を言っているのに、妹は這入った日から、毎日内へ帰ることばかし云っているのである。一日毎に新しく望を属して、一日毎にその望が空しくなるのである。それが可哀そうでならなかったと、お雪さんはさも深く感じたらしく話した。それから見舞に行って帰りそうにすると泣くので、とうとう寐入るまでいたことやら、妹がなぜ直ぐに馴染んだかと不思議に思った看護婦が、やはり長く附き合って見たら、一番好い人であったことやら、なんとか云う太ったお医者が廻診の時にお雪さんが居合わすと、きっと頬っぺたを衝っ衝いたことやら、純一はいろいろな事を聞せられた。

話を聞きながら、純一はお雪さんの顔を見ている。譬えば微かな風が径尺の水盤の上を渡るように、この愛くるしい顔には、絶間なく小さい表情の波が立っている。お雪さんの遊びに来たことは、これまで何度だか知らないが、純一はいつもこの娘の顔を見るよりは、却ってこの娘に顔を見られていた。