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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

人物に対してでなくては興味を有せないのである。風景画の中の小さい点景人物を指して、「これはどうしているのでしょう」などと問う。そんな風で純一は画解きをさせられている。

袖と袖と相触れる。何やらの化粧品の香に交って、健康な女の皮膚のがする。どの画かを見て突然「まあ、綺麗だこと」と云って、仰山に体をゆすった拍子に、腰のあたりが衝突して、純一は鈍い、弾力のある抵抗を感じた。

それを感ずるや否や、純一は無意識に、殆ど反射的に坐を起って、大分遠くへ押し遣られていた火鉢の傍へ行って、火箸を手に取って、「あ、火が消えそうになった、少しおこしましょうね」と云った。

「わたくしそんなに寒かないわ」極めて穏かな調子である。なぜ純一が坐を移したか、少しも感ぜないと見える。

「こんなに大きな帽子があるでしょうか」と云うのを、火をいじりながら覗いて見れば、雑誌のしまいの方にある婦人服の広告であった。

「そんなのが流行だそうです。こっちへ来ている女にも、もうだいぶ大きいのを被ったのがありますよ」

お雪さんは雑誌を見てしまった。そして両手で頬杖を衝いて、無遠慮に純一の顔を見ながら云った。