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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
ひょいと島田髷を前へ俯向けると、脊柱の処の着物を一掴み、ぐっと下へ引っ張って着たような襟元に、尖を下にした三角形の、白いぼんの窪が見える。純一はふとこう思った。この女は己のいる処の近所へ来るようにしているのではあるまいか。さっき高山先生の前に来た時も、知らない内に己の横手に据わっていた。今金鎖の親爺の前に来ているのも己の席に近いからではあるまいかと思ったのである。しかし直ぐに又自分を嘲った。幾ら瀬戸の言うのが事実で、今夜来ている芸者はお茶碾きばかりでも、小倉袴を穿いた書生の跡を追い廻す筈がない。我ながら馬鹿気た事を思ったものだと、純一は心機一転して、丁度持て来た茶碗蒸しを箸で掘り返し始めた。
この時黒羽二重の五所紋の羽織を着流した、ひどくにやけた男が、金鎖の前に来て杯を貰っている。二十代の驚くべく垢の抜けた男で、物を言う度に、薄化粧をしているらしい頬に、竪に三本ばかり深い皺が寄る。その物を言う声が、なんとも言えない、不自然な、きいきい云うような声である。Voix de fausset である。
左の手を畳に衝いて受けた杯に、おちゃらが酌をすると、「憚様」