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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

純一は思い当る所があるらしく、こう云った。「僕は芸術家がる訳ではないのですが、どうも勝負事には熱心になられませんね」

「もう今に歌がるたの季節になるが、それでは駄目だね」

「全く駄目です。僕はいつも甘んじて読み役に廻されるのです」と、純一は笑いながら云った。

「そうさね。同じ詞で始まる歌が、百首のうちに幾つあるということを諳んじてしまって、初五文字を読んでしまわないうちに、どれでも好いように、二三枚のかるたを押えてしまうことが出来なくては、上手下手の評に上ることが出来ない。もうあんな風になってしまえば、歌のせんは無い。子供のするいろはがるたも同じ事だ。もっと極端に云えばAの札Bの札というようなものを二三枚ずつ蒔いて置いて、Aと読んだ時、蒔いてあるAの札を残らず撈ってしまえば好いわけになる。若し歌がるたに価値があるとすれば、それは百首の歌を諳んじただけで、同じ詞で始まる歌が幾つあるかなんと云う、器械的な穿鑿をしない間の楽みに限られているだろう。僕なんぞもそんな事で記憶に負担をさせるよりは、何かもっと気の利いた事を覚えたいね」

「一体あんな事を遣ると、なんにも分からない、音の清濁も知らず、詞の意味も知らないで読んだり取ったりしている、本当の routiniers に愚弄せられるのが厭です」