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せいねん

青年

森 鴎外

「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页

青空文庫

それにこの家は茶掛かった拵えでありながら、いかにも晴晴している。蹂口のような戸口が南向になっていて、東の窓の外は狭い庭を隔てて、直ぐに広い往来になっているからであろう。

話はいつ極まるともなく極まったという工合である。一巡して来て、蹂口に据えてある、大きい鞍馬石の上に立ち留まって、純一が「午から越して来ても好いのですか」と云うと、蹲の傍の苔にまじっている、小さい草を撮んで抜いていた婆あさんが、「宜しいどころじゃあございません、この通りいつでもお住まいになるように、毎日掃除をしていますから」と云った。

隣の植木屋との間は、低い竹垣になっていて、丁度純一の立っている向うの処に、花の散ってしまった萩がまん円に繁っている。その傍に二度咲のダアリアの赤に黄の雑った花が十ばかり、高く首を擡げて咲いている。その花の上に青み掛かった日の光が一ぱいに差しているのを、純一が見るともなしに見ていると、萩の茂みを離れて、ダアリアの花の間へ、幅の広いクリイム色のリボンを掛けた束髪の娘の頭がひょいと出た。大きい目で純一をじいっと見ているので、純一もじいっと見ている。

婆あさんは純一の視線を辿って娘の首を見着けて、「おやおや」