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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
要するに頭次第だと云った。それから、とにかく余り生産的な為事ではないが、その方はどう思っているかと問われたので、純一が資産のある家の一人息子に生れて、パンの為めに働くには及ばない身の上だと話すと、大石は笑って、それでは生活難と闘わないでも済むから、一廉の労力の節減は出来るが、その代り刺戟を受けることが少いから、うっかりすると成功の道を踏みはずすだろうと云った。純一は何の掴まえ処もない話だと思って稍や失望したが、帰ってから考えて見れば、大石の言ったより外に、別に何物かがあろうと思ったのが間違で、そんな物はありようがないのだと悟った。そしてなんとなく寂しいような、心細いような心持がした。一度は、家主の植長がどこからか買い集めて来てくれた家具の一つの唐机に向って、その書いて見るということに著手しようとして見たが、頭次第だと云う頭が、どうも空虚で、何を書いて好いか分らない。東京に出てからの感じも、何物かが有るようで無いようで、その有るようなものは雑然としていて、どこを押えて見ようという処がない。馬鹿らしくなって、一旦持った筆を置いた。
天長節の朝であった。