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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
そして茶碗を取り上げて、茶を一口に飲んだ。婆あさんが詞を挟んだ。
「お嬢様は好く画を見にいらっしゃいましたが、小泉さんは御本をお読みなさるのですから、折々いらっしゃって御本のお話をお聞きなさいますと宜しゅうございます。御本のお話はお好きでございましょう」
「ええ」
純一は、「僕は本は余り読みません」と云った。言って了うと自分で、まあ、何と云う馬鹿気た事を言ったものだろうと思った。そしてお雪さんの感情を害しはしなかったかと思って、気色を伺った。しかしお雪さんは相変らず口元に微笑を湛えているのである。
その微笑が又純一には気になった。それはどうも自分を見下している微笑のように思われて、その見下されるのが自分の当然受くべき罰のように思われたからである。
純一はどうにかして名誉を恢復しなくてはならないような感じがした。そして余程勇気を振り起して云った。
「どうです。少しお掛なすっては」
「難有う」
右の草履が碾磑の飛石を一つ踏んで、左の草履が麻の葉のような皴のある鞍馬の沓脱に上がる。お雪さんの体がしなやかに一捩り捩られて、長い書生羽織に包まれた腰が蹂口に卸された。