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せいねん
青年
「昴」1910(明治43)年3月~1911(明治44)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,670 字 · 246 页
朝は平凡な朝であった。極まって二三日置きに国から来る、お祖母あ様の手紙が来た。食物に気を附けろ、往来で電車や馬車や自動車に障って怪我をするなというような事が書いてあった。食物や車の外には、危険物のあることを知らないのである。
それから日曜だというので、瀬戸が遣って来た。ひどく知己らしい事を言う。何か己とあの男と秘密を共有していて、それを同心戮力して隠蔽している筈だというような態度を取って来る。そして一日の消遣策を二つ三つ立てて己の採択に任せる。その中に例の如く une direction dominante がある。それは磁石の針の如くに、かの共有している筈の秘密を指しているのである。己はいつもなるべくそれと方向を殊にしている策を認容するのであるが、こん度はためしにどれをも廃棄して、「きょうは僕は内で本を読むのだ」と云って見た。その結果は己の予期した通りであった。瀬戸は暫くもじもじしていたがとうとう金を貸せと云った。
己にはかれの要求を満足させることは、さほどむずかしくはなかった。しかし己は中学時代に早く得ている経験を繰り返したくなかった。「君こないだのもまだ返さないで、甚だ済まないが」