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たかしまいし

高島異誌

国枝 史郎

「講談雑誌」1924(大正13)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,007 字 · 26 页

青空文庫

以前空地であった頃から其池は其処に在ったので、其頃から其池は人達によって、「蟇の池」と呼ばれていた。夫れは巨大な無数の蟇が其処を住家にして住んでいるからで、そう云えば本当に初夏の候になると、水草の蔭や浮藻の間に、疣々のある土色の蟇や、蒼白い腹を陽にさらして、数え切れない程の沢山の蟇が住んでいるのが、彼にも見えた。

「蟇というものは一見すると無気味じゃが、よく見ると仲々雅致がある。決して池の蟇は殺してはならぬ」

純八は家人へ斯う云い渡して、却って蟇の保護をした。

然るに此処に困った事には、その池の蟇を捕えようとしてか何処からとも無く無数の蛇が、庭園の中へ集まって来て、女子供を驚かせたり、縁や柱へ巻き付くので、尠からず純八は当惑し、見付ける端から殺させたけれど、蛇は益々増るばかりであった。

と云って蟇を殺すことは、純八は何うしても許さない。

斯うして三年目の夏が来た。

其時事件が起ったのである。

それは夕立の晴れた後の、すがすがしい午後のことであったが、三歳になった吉丸は母の笹千代に連れられて、池の畔を歩いていた。すると草叢から一匹の蛇が、紐のようにスルスルと走り出たが、ハッと思う暇も無く吉丸の足へ巻き付いた。