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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
「まあ、ありがとうございました。では、ちょっと拝見を……」
「黒トカゲ」は落ちつきはらって、小函を受取り、袖のかげで蓋をあけて、白ビロードの台座におさまった巨大な宝石を、じっと見入った。
「ああ、なんてすばらしい……」
みるみる、彼女の顔に歓喜の血がのぼった。稀代の宝石には、千枚張りの女賊の顔をさえあからめさせる、神秘の魅力がこもっていたのだ。
「五色の焔、ほんとうに五色の焔が燃えているようでございますわね。ああ、わたくし、どんなに恋いこがれていたことでしょう。この『エジプトの星』に比べては、わたくしが長年収集しました千顆に近いダイヤモンドも、まるで石ころ同然でございますわ。ほんとうにありがとうございました」
そしてまた、彼女はうやうやしく一礼をするのであった。
相手が喜べば喜ぶだけ、岩瀬氏の方では、命から二番目とまで大切にしていた宝物を、むざむざこの女に奪われてしまうのかと思うと、覚悟はしながらも、言い知れぬ憎しみが感じられて、眼の前にとりすましている女が、一そう憎々しく見えてくる。すると、例の庄兵衛老人のくせで、こんな場合にも、つい憎まれ口がききたくなるのだ。