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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
でも、不思議がることはないわ。あたしの動物園には、けだものなんていなかったですもの。水族館におさかながいないからって、ちっともおかしいことはありゃしないわ」
黒衣婦人は薄笑いをして、また恐ろしい雄弁をふるいはじめた。
「この中へ、やっぱり人間を入れて遊ぶのよ。おさかななんかよりは、どのくらいおもしろいかもしれやしないわ。檻の中で昂奮している人間も美しいけれど、この水の中へ投げこまれた人間の、水中ダンスがどんなにすばらしいでしょう……」
早苗さんには、それはもう黒衣婦人の声ではなくて、まざまざと眼界一ぱいにひろがる怪奇映画の幻であった。薄黒い水の中に、何か白いものがうごめいていた。ウヨウヨと鎌首をもたげた蛇のかたまりの中から、ボーッと巨大な人の顔が、ガラスの面に現われて、アップアップと鯉のように苦しい呼吸をしている。眼をつむって、眉をしかめて……その顔は男ではない。年寄りでもない。若い女だ……いやそうではない。これは決して他人ではない。そのもつれた蛇の中でもがいているのは、ああ、早苗さん自身なのだ。
「まあ、すばらしいと思わない。なんて美しいお芝居でしょう。