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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
その涙のギラギラする後光が男の白いからだを包んで、チロチロといびつに輝いている。
「お嬢さん、ご気分はどうですか?」
突如として、朗々としたバスの声が響いた。青年が物をいっているのだ。
早苗さんは、ハッとして、涙をはらうために眼をしばたたいて、青年の顔を眺めた。
すぐ眼の前に、油で拭いたようになめらかな白い顔があった。高くて広い額、ふさふさとした黒髪、二重瞼のすき通るような眼、ギリシャ型の高い鼻、赤くて引きしまった唇。その青年が美男であればあるだけ、しかし、早苗さんは恐ろしかった。
「黒トカゲ」は彼女をこの青年の花嫁になぞらえたではないか。青年はそういうつもりでいるのではないかしら。と考えると、その相手が、そして、自分までが、けだもののようにまっぱだかで、逃げようにも逃げられぬ檻の中に、とじこめられている有様を、からだじゅうの血の気が失せるほどあさましいことに思わないではいられなかった。
「いや、お嬢さん、決してご心配なさることはありません。僕はこんなふうをしていても野蛮人じゃないのですから」
青年は言いにくそうに、どもりながらそんなことをいった。彼の方でもひどく恥かしがっているのだ。