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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
きのうもきょうも、つい今しがたまで檻の中にまっぱだかで震えていたではないか。
これは一体どうしたことなのだ。まさかこれほどの大新聞が、間違った記事をのせるはずはない。いや、何よりも確かなのは写真である。船の中にとらわれていたはずの早苗さんが、同じその日に、一方では大阪郊外の岩瀬邸でニコニコ笑って坐っているなんて、こんなへんてこなことがあり得るだろうか。
聡明な黒衣婦人にも、この奇々怪々な謎だけは、どうにも解くすべがなかった。彼女は今、生れてはじめての、なんともえたいの知れぬ恐怖にうちのめされて、顔は死人のように青ざめ、額には脂汗の玉が無残ににじみ出していた。「離魂病」という妙な言葉が、ふと彼女の頭に浮かんだ。一人の人間が二人になって、別々の行動をするという、不可解な言い伝えである。大昔の草子類でも読んだことがある。外国の心霊学雑誌でも見たことがある。心霊現象などを全く信じない現実家肌の黒衣婦人ではあったが、今はその信じがたいものを信じでもするほかに、考えようがないのである。
そうしているところへ、雨宮青年を探しに行った男たちがドヤドヤ帰ってきて、どこを探しても潤ちゃんの姿が見えないと報告した。