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くろとかげ
黒蜥蜴
江戸川 乱歩
「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页
檻の中にでもいるんじゃありませんか」
やっと潤ちゃんが答えた。だがなんという不愛想な口のきき方であろう。
「檻の中って、お前が檻の中から出したんじゃないの」
「そこがどうもよくわからないのですよ。一度調べてみましょう」
潤一青年はそう言い捨てて、ノコノコ歩き出した。ほんとうに檻の中を調べてみるつもりらしい。この男は気でも違ったのかしら。それとも、何か別のわけでもあるのかしら。黒衣婦人は妙に気がかりになって、潤ちゃんの挙動を監視しながら、そのあとについて行った。
人間檻の鉄格子の前に行って見ると、出入り口の鍵が差したままになっている。
「お前、きょうはほんとうにどうかしているわね。鍵をそのままにしておくなんて」
つぶやきながら、薄暗い檻の中をのぞきこんだ。
「やっぱり、早苗さんはいやしないじゃないか」
向こうの隅っこに、裸体の男が一人うずくまっているばかりだ。どうしたのか、きょうはひどく元気のない様子で、グッタリとうなだれている。それとも眠っているのかしら。
「あいつに聞いてみましょう」
潤ちゃんは、ひとり言のようにいって、鉄格子をひらくと、檻の中へはいって行った。