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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

言葉さえも、もはや盗賊の手下などのものではない。しかも、その声! その歯切れのよい口調には、何かしら耳なれた響きがあったではないか。

黒衣婦人はあまりの激情に、身内がブルブルとふるえてくるのをどうすることもできなかった。

「それじゃあ、あなたは……」

「遠慮することはない。何をためらっているのです。言ってごらんなさい、その先を」

職工服はもう笑っていなかった。彼のからだ全体に、何かしら厳粛なものが感じられた。

黒衣婦人はジリジリと、腋の下を冷たいものが流れ落ちるのを覚えた。

「明智小五郎……あなたは明智さんでしょう」

ひと思いにいってのけて、ホッとした。

「そうです。君はそれを、ずっと前から気づいていたではありませんか。気づきながら、君の臆病がその考えを無理に抑えつけていたのです」

職工服の人物は、言いながら、顔じゅうの付けひげをむしり取った。すると、その下から現われてきたのは、潤ちゃんらしい顔色にメーク・アップはしていたけれど、まぎれもない明智小五郎、なつかしの明智小五郎であった。

「でも、どうして……そんなことがあり得るのでしょうか」

「あの遠州灘のまっただ中に、ほうりこまれた僕が、どうして助かったかというのでしょう。