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くろとかげ

黒蜥蜴

江戸川 乱歩

「日の出 第三巻第一号―第十二号」1934(昭和9)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,633 字 · 215 页

青空文庫

「その緑川夫人こそ恐ろしい女賊です。早苗さんを誘拐した張本人です」

十数秒のあいだ、死のような沈黙がつづいた。三人が三様のまなざしをもって、お互いをにらみ合った。

やがてその沈黙を破ったのは緑川夫人であった。

「まあ、飛んでもないことです。山川さんが何をなさろうと、あたしの知ったことではありません。ただ、ちょっとしたお知合いの縁で、ホテルへご紹介しただけですもの。あんまりですわ。そんな、そんな……」

だが、これが妖婦の最後のお芝居であった。

彼女の言葉が終るか終らぬに、コツコツとドアをノックする音が聞こえた。

明智はそれを待ちかねていたように、素早くドアに近づいて、手にしていた鍵でそれをひらいた。

「緑川夫人、君がいかに言い逃がれようとしても、ここに生きた証人がいる。君は早苗さんの前でも、そんな空々しい嘘をいえるのか」

明智が最後のとどめを刺した。

ドアの向こうから現われたのは、明智の部下の青年、青年の肩にぐったりとよりかかってわずかに立っている青ざめた早苗さん、それを守るように付きそっている制服警官の三人の姿であった。

女賊「黒トカゲ」は絶体絶命の窮地に立った。