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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁
「思い残すこともない」
八郎太は、刀を鞘に納めて
「小太、生れてはじめて、人を斬るが、老いてもわしの腕は見事じゃぞ。そうは思わぬか」
と、笑った。
根本中堂の、巨大な、荘厳な堂前に二人は額いた。内陣には、ただ一つの宝燈が、またたいているだけで、漆黒な闇が、堂内に崇高に籠めていた。
八郎太が、やがて、この宝燈の中へ消え去るべき自分だとも思ったり――或いは、もう一度この土の上で、同じように合掌して、歓喜に祈る自分の姿を想像したり――十死一生の勝負だとは信じていたが、自分の死ぬということが、少しも恐ろしくなく、胸を打つ程の想像も湧いて来なかった。自分の、包囲されて斬られるところを想像したが、人の斬られたのを見る程の感じもなかった。
小太郎は、父の勤めを、暮しを、幼い時から見ていたので、下級武士が、手柄を立てて出世するというようなことは、考えられなかった。二十年でも、三十年でも、毎日同じことをしていなくてはならぬ運命だと、感じていた。父が、意地のため、自分のために、牧を斬って、それで仙波の名が名高くなったとて、何うなるのか?――益満程の才人が、腕前で、家中の人々から恐れられ、称められても、少しの出世も出来ないのに、牧を斬ったとて、何う出世が出来るか?――それよりも、牧を斬って、その手柄の代りに、母と父とを救い、妹