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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

牧なんか居るものか――というように思えた。

八郎太が立上った。杉木立の下を、熊笹の中を、裾を捲り上げて登った。羽織の下に襷をかけて、鎖鉢巻を袖の中へ隠して

「油断するなよ」

二人が耳を澄まし、呼吸を調えて、静かな足取で、小半町行くと、人影が木立の間に見えた。八郎太が佇んで、見届けようとした時、木立の間から、細径へ二人の侍が出て来て立止まった。

「見張」

と、小太郎が囁いた。囁くと共に、拳も、胴も、膝頭も、ふるえ出した。押えても、ふるえが止まらなかった。腋の下に、冷たい汗が流れて来た。

(逆上してはいけない。怯けてはいけない)

と、押えたが、何うしても止まらぬうちに、二人の前近くへ来た。一人が、径の真中で

「御貴殿達へ申し入れる。吾々の姓名は御容赦願いたい。当山の許可を受けて、都合によりここより一切登山を止めておりまする。お戻り願いたい。甚だ勝手ながら、何卒」

一人は、横を向いて、草鞋で土をこすっていた。

「ははあ――」

八郎太は、さも感心したようにいったが

「当山の許しを得たと仰しゃれば、是非もござらぬが――念のために、許可状を拝見致しとうござる」

後方にいた侍が、険しい眼をして、八郎太の方へ向き直った。