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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁

青空文庫

庄吉が、腕を延すと、その品物の方から、庄吉の掌の中へ、飛び込んで来るのが、常であった。そして、今の仕事は鋭利な鋏を、右手の掌の中へ隠して、紐を指先で切ると同時に、掌へ、印籠を落す、という、掏摸の第一課の仕事であった。

庄吉は、ぐんぐん近づいて行って、鋏を指の間へ入れた。三尺、二尺――近づいて、鋏を動かすと――ほんの紙一重の差であろう、鋏は、空を挟んで――庄吉は

(侮っちゃあいけねえ)

と、感じた。そして、次の瞬間、も一度、鋏を突き出して、指を動かすと、紐は、指先へ微かに感じるくらいの、もろさで、切れて、印籠は、嬉しそうに、庄吉の掌の中へ落ち込んだ。庄吉は、満足した。

だが、それは、ほんの瞬間だけのことであった。庄吉の身体が侍から、一尺と離れぬ内に、侍が振向いた、険しい眼が、庄吉の眼と正面から衝突した。侍が、立止まった。

庄吉は、それでも、腕に自信があった。掏ったとわかって、振返ったのではなく、自分が余り、近づきすぎたのを怪しんで、振返ったのだと思った。

だが、それも、ほんの瞬間だけにすぎなかった。庄吉の、引こうとした手が、侍の手で、しっかり握りしめられてしまった。