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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
線上閱讀直木 三十五《南国太平記(なんごくたいへいき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 493,291 字 · 991 頁
月丸は、答えもできないし、動きもできないし、刀を握りしめたまま、全身を固くして、居すくんでしまった。障子が開いても、義観が出て来ても、手も、足も、舌も、動かないと感じるくらいに、薄気味悪い、凄い声だった。
昼間見た、山を降りて来る足取り、あの石を運んだという怪力、その鋭い眼――それは、人間でなく、何かの化身のように、もう一度、月丸へ蘇って来た。
刀を取っての対手なら、誰にも負けぬ自信はあったが、闇の中に物が見え、刀を抜いて近々と近づいている者へ、やさしく
「何の用かな」
と、空々しくいいかける老人は、何う対手にしていいかわからなかった。
(しまった)
と、感じた。そして、義観が現れたなら、身体ぐるみ、ぶっつかってやろうと、しびれるような気持の中で決心をして、次の言葉と、義観の出現とを、待っていたが、それっきり、次の言葉が無かった。
月丸は、自分の耳を疑ってみた。だが、明らかに聞えたのは聞えたのに違いなかったのだから、たったその一言だけで、後はいくら待っていても、次の言葉が聞えないとなると、一層、不気味になってきた。だが、月丸は、何もいえなかったし、身体を動かしたなら、何かしら、大変なことが、自分に起るようにも思えた。