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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新編忠臣蔵(しんぺんちゅうしんぐら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 頁

青空文庫

父上の死を見すてて、何でここから引っ返せましょう。拙者は、帰りません』

『その志だけで、武士の義も、父子の道も、立派に通って居る。御城下の土を踏めば、籠城か殉死か、いずれは死の一途に極まっているものを、そち迄が、散りにゆくには及ばんことだ。――帰れ、ここから帰れ』

『いやです。嫌でござります』

『父が申しつけを――』

と云って、喜兵衛は曇った眼を反らしながら、

『なぜ守らんか』

と、鋭く叱った。

三太夫には分りすぎるほど分っている父の心もちではあった。然し、こうあれと教えられて来た家庭の子である、父と争っても、ここから帰ることはしまいと決心した。そして猛々しい心を固めながら、瞼は反対に、止めどない涙を子らしく草にこぼしているのだった。

後の木蔭でその時、誰か、馬を繋がせていた。喜兵衛がその方へ面を向けて、あっと口の裡で云うと、先方からも、

『おう』

と云う錆のある声がした。

馬の背には、鎧櫃と行李とを振分に附けている。そこからにこにこと赭顔に笑みをたたえて来る白髪の老武士は、陣笠をかぶり、手甲脚絆のきびしい旅扮装に体をつつんでいた。京都留守居役の小野寺十内なのである。