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しんぺんちゅうしんぐら

新編忠臣蔵

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《新編忠臣蔵(しんぺんちゅうしんぐら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 頁

青空文庫

前車の轍

――しかし今度は相成らぬぞ。止めるな』

『お止めいたします。――この兵部の命を召されましょうとも』

『何っ』

『色部殿や、深沢殿なども居らるるのに、なぜ殿をお止め申さんのか。兵部は死んでも、このお袴のすそを放す事ではございませぬ』

弾正大弼は、それ迄抑えていた感情の爆発を、何うする事もできなくなった。

『兵部っ。――これっ爺』

『はい』

『そちは、この大弼を、天下の笑いものにするつもりか。世に又とない大不孝者とするつもりかっ』

『恐れながら、御意のとおりにござります』

『血迷ったか』

思わず、弾正大弼は、足を上げて、自分の袴のすそをつかんでいる兵部の手を振り退けた。

兵部の痩せている体は、ばたっと畳へ投げ出されたが、手は放さなかった。

憤った大弼は、声をつづけて、

『放せっ、放せっ』

ずるずると二、三歩ほど、兵部の体をひき摺りながら、

『家来共っ、猶予していては、赤穂方の浪人共は退散して、末代まで、上杉家の汚名は拭われまいぞ。邪魔だてするこの爺めを、わしの足元からぎ放して、奥へ閉じ籠めいっ』

『お待ちあそばせ』

兵部は、必死に、しがみついていた。

主命とあって、近習でも飛びかかって来たら、一喝して退けてしまうつもりであろう、鋭い白眼が、じっと一同を睨めつけた。