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しんぺんちゅうしんぐら
新編忠臣蔵
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《新編忠臣蔵(しんぺんちゅうしんぐら)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 337,181 字 · 676 頁
然し、夏から秋の末にかけて、まだこうという程な探りは何も掴めなかった。ここは、吉良邸の裏門のすぐ前なので、大きな声を放てば、向うへ聞えるほどの距離なのだった。その眼の前に見ているものが、いつまでも、明確にすることができないのは、遠いものに対する焦躁より遙かに苦しい焦だたしさであった。
『――したが、無謀に逸ることは、内蔵助殿がいう迄もなく、お互いが戒めることだ。奥平源八の浄瑠璃坂での仇討ちの折にも、駈け入るまえに、詳しく内部の様子を探ってなかった為に、大きな不覚をいたしたという』
『そういう点では、飽くまで用意ぶかいのは吉田忠左衛門殿だろう。何事も、兵学を基礎に考えられる質なので、近頃は、毎日、この松坂町を中心に、両国から本所一帯を歩いて、路地の抜け道、空地、井戸のありか、いちいち自分の足かずに踏んでは、いざという時の地の理に備えておられるそうだ』
『いや、あの仁には、敬服する。――内蔵助どのもいつぞや云うておられた。もし忠左衛門殿の抑えがなかったら、江戸詰は江戸詰で事をやぶり、上方にいた者は上方で策を失ったことかも知れぬと……』
片岡源五右衛門が、すこし体を前へ曲げて、