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まつのやろはち

松のや露八

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《松のや露八(まつのやろはち)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 125,597 字 · 253 頁

青空文庫

敦盛

一

「いやですわ、お揶揄いになっては」

お喜代は、世話になった家の娘でもあり、また、お菊ちゃんの気位には、何となく、頭の上がらない気がして、羞恥んだ。斧四郎は、屋形船の中で、

「二人とも、船へ来て、待っていなさい。坊主は、まだ、支度しているのかい」

「そうでしょう。後から、すぐ来るといいましたから」

船宿の女将が、料理の重箱や、酒瓶を運び入れている。

無言のうちに、妍を競っているようなお菊とお喜代と、なにかと、斧四郎の身のまわりを、整えていた。

そのうちに、

「いや、遅くなりました」

岸の上から、見馴れない侍が、声をかけた。ひょいと、屋形船から人々が仰ぐと、その侍が、露八だった。

誰も、気がつかなかったはずである。露八は、どこで工面して来たのか、坊主頭に大髻の鬘をかぶって、大小をたばさみ、白緒の草履で、りゅうとしてやって来たのであった。

敦盛

一

水も空も秋でなくては出ない碧さを出していた。赤蜻蛉が今日は高くにいて藁灰のように太陽の面をかすめている。

屋形船は、今戸の岸を離れて、大川のまん中へ出た。下流へ行くので船頭は櫓をあそばせて、水にまかせていた。

「旦那、この人が、隣家の露八さんでございます。